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コンサル出身の保育士の挑戦/新しいサービスが子どもの可能性を広げる

取材特集 赤松菜々子(ななみ株式会社 代表)

お子さんがいる方ならば、「あれだけ欲しいと言われて買ったおもちゃなのに、すぐに飽きてほったらかし」という苦い経験をしたことがあるだろう。親としては、せっかく買ったおもちゃを簡単に捨てがたい。

しかし、そうこうしているうちに、おもちゃはどんどん溜まって、部屋が散らかっていく。「このおもちゃたち、どうしたものか?」と頭を悩ませているママ・パパも多いのではないだろうか。

いま、様々なサブスク事業が生まれる中、子どもの成長に合わせて様々なおもちゃ、知育玩具をレンタルできるサービスが注目されている。月額たった3,000円で、15,000-20,000円相当のおもちゃや知育玩具を届けてくれるという。

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専門家が子どもの興味関心や、成長段階に合わせて選定し、入れ替えのタイミングも自由とのことで、サービス開始直後から問い合わせが殺到しているという。創業者は元保育士で一児の母でもある赤松菜々子氏だ。

押し付けず、自分に合った生き方を探す重要性

もともと、赤松氏の幼少期は近所の友達と活発に遊びまわる子だったという。ところが、中学生になると気の合う友人に恵まれず、学校がつまらなくなってしまった。「学校に行きたくない」と母親に相談すると、「学校に行かない代わりに何かしなさい」と諭され、赤松氏は『児童劇団』に入った。

ほとんど学校に通わず、演技やダンスの練習に明け暮れ、仕事のオファーが入れば、自分で準備して、毎回一人で撮影現場に向かった。早朝の撮影や遠方地も多く、始発で家を出発することも多かったという。中学校にはあまり通っていなかったが、中学生ながらに収入を得て、学校では学べないことを学んでいた。

一見すると自由奔放。元々型通りに押し付けられるのは嫌い。でも、中学生からプロの役者として働き、貴重な経験や出会いの中で自分を成長させてきた。自身がそのような生き方をしてきたからこそ、「みんなと同じでなくてもいい。色々な生き方がある。押し付けず、子どもの可能性や選択肢を信じ、機会を提供できる人間でありたい」だと赤松氏は言う。

高校卒業後は、保育関係の短期大学へ。必要な単位を取り、保育士資格を取得したうえで、「まずは、一般企業で社会人経験を積もう」と経営コンサル会社に就職。スタッフ業務を通じてビジネスの知見を拡げた上で、保育士兼事務スタッフとして保育業界に戻ってきた。経営コンサルで働いたことのある保育士は、そう多くない。

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経営コンサルの会社で経験を積んだ赤松氏にとって、保育の現場と経営サイドの距離感がとても気になったという。

保育士は、保育の観点を重視する一方、コスト意識や仕事の効率化といった観点があまりない。一方で、経営サイドは効率やコスト意識が先行し、保育士が大事にしている想いやこだわりを理解していない。結果、双方が両極端となり対立してしまう

「両方の立場を理解していれば、妥協点が見いだせるはずなのに・・・」、そんな想いから、保育事業に参入するベンチャー企業にて、事業責任者として新たなチャレンジを決意する。

保育園開設手続きから、保育士の採用、園児募集まで、すべてゼロからの立ち上げ。 試行錯誤しながら、1年目になんとか1園開園。それから、数年後には6-8園を同時開園する体制へ。正社員が1年で100人ずつ増えていくような状況で、事業責任者として急拡大する組織の様々な歪みや問題に向き合い、困難な舵取りを行っていった。

保育業界の中でも、現場の分かる事業責任者は多くないという。だからこそ、自身が保育士でもあり、現場も知っている立場で、「経営観点と、現場観点のバランス」を大切に事業運営に携わってきたという。「ビジネスを行う上でも、保育士であること、保育や保育の現場を知っていることは、大きな強みになる」と赤松氏は言う。

『保育士』という資格の可能性をもっと拡げていきたい

赤松氏は、「保育士という資格に経営観点を掛け合わせ(保育×経営)、新たな境地を切り拓きたい。私がチャレンジしていくことで、若い保育士たちに、保育士の可能性の拡がりを感じてもらいたい」と考え、さらに大きな挑戦に踏み出すことを決意する。

次なる挑戦の1つは、元々将来やってみたいと思っていた顧問コンサル。こちらは既に、保育事業者からのオファーが相次いでいるという。「経営と現場がわかる」という点が重宝される理由の一つであるという。

そして、もう1つ。仲間4人と立ち上げる「おもちゃのサブスク」事業”トイトイ”である。ななみ株式会社として法人登記を行い、これからは、経営者の立場で挑戦する。

自身も子育てを行うなかで、「おもちゃ」についての問題意識が高まっていったという。

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まず、ママ・パパは、いつの間にか増えていくおもちゃに頭を悩ませている。数が増えれば、家も散らかる。せっかく買っても、子どもが気に入らずほとんど遊んでないおもちゃも多いが、簡単にポイポイと捨てるのも、地球環境を考えると気持ちが咎めし、もったいない。周りを見てみると、さらに、そもそも子どもの年齢にマッチしていないものや、買い与えたままになって、子ども自身が遊び方を掴めず放っておかれているケースも多いと感じられた。

本来であれば、洋服と同じように、子どもの成長や好みに合わせて、おもちゃも買い替えていく方が断然良い。しかし、現実的に頻繁な買い替えはお金の面でも難しい。

赤松氏は、「お金や収納スペースといった制約を超えて、子どもたちに沢山の出逢いを提供し、自分に合ったものを見つける体験や、それが見つかるんだという実感を得てほしい」と思い、多くの人たちに相談する中でサブスク事業に行き着いたという。

赤松氏にとって、「おもちゃのサブスクは、新しい子育て支援」であるという。

「子どもにとっては、おもちゃって社会を学ぶものでもあります。そこから知ること、発見があるんです。それこそ犬ってワンワンって泣くんだってことも、おもちゃ遊びを通じて知ることがある。」だから、子どもたちの社会を拡げるために色々なおもちゃと触れない、多くの出会いや発見をしたほうがいい。

それならば、プロ(=保育士)の観点でおもちゃをセレクトして、定額レンタル形式で頻繁な入れ替えを可能にし、知育につながる遊び方・工夫もきちんと伝えていけないだろうか。そうすれば、出費は抑えたまま、おもちゃ(=社会)との沢山の出逢いを提供し、不要なおもちゃのゴミ削減にもつながるのではないだろうか。

「保育の観点からも家計の観点からも良いものにして、自分たちの事業としても、きちんとバランスさせる」赤松氏だからこそ見いだした解決策(=事業)といえるだろう。

話を聴いていると、おもちゃのサブスク事業には、赤松氏自身の生き方や価値観が映し出されているように感じる。中学生は学校に通わなければならない、という思い込みや制約に縛られず、多くの機会のなかで成長していく。

「幼少期のおもちゃ遊びから、有ものを押し付けず、色々なものに触れる機会を提供し、幼いうちから自分にあったものを見つける習慣を身に付け、子ども達の可能性を拡げたい。沢山のおもちゃに触れて、社会を拡げてもらいたい」

「最初は小さく、急拡大は狙わない」と赤松氏は話すが、個人向けから、キッズクリニックや美容院用のサブスク、さらにイベント・催事の大掛かりなキッズスペース用遊具・玩具の提供まで、賛同を得た提携企業との協働で幅広いニーズへの対応体制を既に整えている。

保育士と言う資格を活かし、可能性を拡げていく赤松氏。「事業への共感を集めながら、みなさんに必要とされる事業に育てていきたい」と朗らかに語ってくれた。

September 17, 2020


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