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10年後の人生に差がつく”キャリアの棚卸し” キャリアコーチから見た人生100年時代

取材特集 森琢也(LSP×Coaching)

月曜の朝8:15。通勤ラッシュの山手線、満員電車で揺られながら、ふと転職サイトの広告が目に留まる。

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「自分はどうだろう。転職市場ではいくらで売れるのだろうか? 」

会社員であれば、誰もがふとこのように考える瞬間があるだろう。そもそも、現在の給料は、自身の働きに見合ってるのだろうか?自分は、他の会社でも通用するのだろうか?

オフィスに着くと、最近昇格した50歳の部長が渋い顔でスマホを見入っていた。雰囲気から、どうやら直接業務とは関係ないことをしているようだ。つい先日、会社が早期退職制度の枠を拡大。これまで55歳以上だった募集条件を45歳以上に引き下げた。東京商工リサーチの発表によると、2019年に早期・希望退職者を募集した上場企業は延べ36社、対象人数は計1万1351人だった。2018年比で約3倍だという。そして、経団連は年功序列の見直しを打ち出した。

「人生100年時代」で広がる意識変革

人生100年時代が謳われるなか、「50歳以降の人生をどう生きるか?」多くの会社員が不安を抱え始めた。今までの常識は通用しない。会社員が絶対安定とは限らない。一方で、転職サイトが普及し、個人の選択肢は広がっている。35歳転職限界説も消えつつある。キャリアを選べる自由さと不安、そのはざまで個々人が自ら考え、選択することが求められている。

そんな状況もあり、ビジネスコーチングを提供する森琢也氏の元には、30代-50代の会社員から「キャリア」をテーマにした依頼が増えている。

キャリアを複線化する

森氏は元々、大手自動車部品メーカーであるデンソー(株)に新卒入社し、経営企画や事業企画を約10年間担当していた。

そんな彼の一つ目の転機は、入社3年目に挑戦した中小企業診断士の資格取得だ。外資系コンサルで働く友人の影響もあり、将来を見据えて土日や平日夜を費やし、1年2ヶ月でストレート合格した。中小企業診断士は、経営コンサルティングに関する唯一の国家資格で、1次、2次の合格率はそれぞれ20%前後、MBAホルダーでも不合格となる、かなり難易度の高い資格だ。

そして合格後、会社の許可を得て土日の副業のカタチで、資格の学校にて中小企業診断士講座の講師を始める。今でこそ副業がブームとなっているが、森氏が副業を始めた2011年当時は副業を認める会社も、副業を始めようとする個人も少なく、非常に先進的な挑戦だった。

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「当時、副業を始めようと思うくらい仕事がラクだったかというと、その真逆だった。」

森氏は、売上百~数十億円規模の世界複数拠点生産品を担当し、その採算改善プロジェクトリーダーとして、営業、生産、開発、複数部署のメンバーと、トヨタグループの代名詞と言われる「乾いた雑巾を絞る」徹底したカイゼン活動を推進していた。

ひとたびグローバルコンペが始まれば、早朝から北米、アジア、欧州と各拠点との電話会議を矢継ぎ早に行い、深夜にもう一度北米と会議を行うなどの激務。仕事が回せず、各部署からの要望も滞らせ、プレッシャーから不眠や食欲低下に苦しんだという。

そんな苦しい日々を乗り越える支えになったのが、なんと、副業の存在だったのだ。

「当時、自分はもし今の仕事が無理でも、講師業や他の仕事でなんとか生きていける。『この会社には、自らの意思でここにいるんだ』と毎週末、自分に確認を取ることで、踏ん張り続けることが出来た。」

出口や他の選択肢も作っておけば、最後まで追い込まれない。一般的に、収入を増やす手段として副業に注目が集まるが、森氏は自身の体験から、収入観点だけでなく、精神衛生の観点でも「キャリアを複線化」することの大きなメリットを強く感じたという。

“キャリアの棚卸し”のメリット

二つ目の転機は、転職活動での挫折だ。

入社時から、ずっと同じ会社に留まっている気はなかったというが、良い上司・同僚にも恵まれ、充実した時間はあっという間に過ぎていった。転職を意識したきっかけは、30歳を過ぎたある日、興味本位で参加したLEGO® SERIOUS PLAY®だった。レゴブロックを使いながら自己理解を深めるワークショップで学生時代の志を思い出した。そして、「新たな挑戦をしよう」と決意する。

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しかし、当時は現場での仕事が回らずに日々ダメ出しを受け続けたため、自分のキャリアやスキルには全く自信を持てなかったという。当時を思い出して苦笑いして語る。「もともと、出来たことより出来なかった事に目を向ける性格。さらに、あくなきカイゼン精神のトヨタ系で、課題に目を向ける傾向に拍車がかかっていた。」

転職活動を始めてすぐ、大手コンサルティング会社など3社に応募した。書類選考は通ったものの、全て1次面接で落ちた。初めての転職活動、いきなりの全滅。「あぁやっぱり自分はダメなんだな」ショックは大きかったはずだ。

当時を振り返ってもらうと、「敗因は、自分自身の”キャリアの棚卸し”ができていなかったこと」だという。

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成功のきっかけをくれたのは、銀座コーチングスクールで出会ったコーチ仲間だった。

一緒に受講している仲間に、これまでやって来た仕事を何気なく話していると、思いも寄らない言葉が返って来た。

「森さん、結構大変な仕事に取り組んで、貴重な経験積んでいるように見えますよ。一度、事実をそのまま書き出してみたらどうですか?」

自分では”出来ていない”ことばかり気にしていたが、取り組んでいたプロジェクトの規模や日々の業務内容が、他人の目から見ると魅力的に映ることがある、と気づいた。コーチングの基礎である、対話の中から自分で気づきを得る、思考を整理する、という点が大いに役に立った事例だ。

自己評価を入れず、これまで携わった仕事内容を、客観的に事実ベースで一つ一つ振り返っていくと、自分がどんな強みを持っていて、これからどんなことをしていきたいか、ストーリーが描けるようになって来る。

できる事(スキル・能力)、やってきた事(経験)、やりたい事(意志)、…最終的に美しい一筋のストーリーが紡ぎだされ、その後は転職活動で連戦連勝。最終的には、外資大手コンサルティング会社も含めて、書類を出した企業7社すべてに合格。中には、支度金100万円の提示もあったという。

森氏は、最終的に兼業OKという条件提示をしてくれた㈱リクルートマネジメントソリューションズに入社した。そこでは、研修講師の募集、育成を担当。候補者は、ほとんどが大手企業で管理職を務めている30-50代。求人倍率の高まりやいくつか条件面で不利な要素が重なり、応募者集めに苦戦していた状況から、半年でハイクラス層2000人以上(過去比10倍)の応募を集めたという。

常にキャリアの複線化を意識し、現在はベンチャー企業の経営にも参画しながら、セミナー講師やプロフェッショナルコーチとしても活動する森氏。最近では、副業・転職などのキャリアに関連したテーマで、ビジネスパーソンからのパーソナルコーチングの依頼も増えている。自身の複業や転職活動の失敗、リクルートにて延べ7,000人以上のハイクラス人材を選考した経験がとても生かされているという。

「過去の私のように、自身の棚卸が不十分でせっかくの強みや経験を明確に出来ていない人は多い。結果、転職活動で自身の価値を伝えきれずに、損をしている人を沢山見てきました。転職エージェントは、様々な企業を紹介して自分に代わって求人に応募してくれます。しかし、転職するべきかどうかの本質的なレベルで相談に乗ってくれる人は少ない。私は、転職ありきで考えることには反対です。現職のまま複業でキャリアを拡げる選択肢だってあります。」

どのように人生を歩んでいきたいか。コーチングによる本質的な問いかけにより、「いまのままが最良」と判断する人、「実はリスク最小限に挑戦する道がある」と気づく人、様々だという。

「キャリアについて悩む人が増えていますが、悩むのはムダ。『漠然と悩む』のではなく『具体的に考える』時間を増やした方がいい。そのためには、良質な対話のパートナーが必要です。一人ではなかなか難しいので著名経営者もコーチングを受けているわけです。時間とお金を投資して、棚卸しや振り返りの機会を設けることで、自分の価値や大事にしていることが明確になり、方向性も定まっていくと思います。過去の私のような失敗や遠回りをしないよう、皆様をご支援出来たらいいですね」

森氏のコーチングを通じて、転職活動で初めて内定を勝ち取った人、迷いを断ち切って踏み出した人、現職で活躍の機会を増やしている人、自身の強みを生かして年収を倍増させた士業の人…。共通しているのは、丁寧な”キャリアの棚卸し”を通して自分の価値に気づき、飛躍のキッカケを掴んだ点だ。 人生100年時代、不確実な現代を生き抜くビジネスマンにとって、森氏のようなキャリアコーチが当たり前になってきたのかもしれない。

July 1, 2020


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